前回まで、高等学校の生徒全員が学ぶ教科「情報」の科目としての変遷をざっと見てきました。
今回から、現在の高校生が学習している教科書の具体的な内容について触れていきたいと思います。
「情報Ⅰ」の教科書
さて、令和4年度から高校生が必履修科目として学ぶ教科「情報」は「情報Ⅰ」に統一されました。文字通り高校生の全員がこの「情報Ⅰ」という科目を履修することになったわけです。
以前は「社会と情報」、「情報の科学」の選択でしたが、どちらを選ぶかによって学習内容はずいぶん違っていました。しかも、どちらの科目を履修するかは生徒の自由選択ではなく、ほとんどの場合で学校側の事情で決められていました。現在は、ある意味で、高校生全員が”平等”に同じ内容を学ぶようになったのです。
この「情報Ⅰ」の教科書(文科省検定済)は、各社から令和4年度に10冊以上が発行されています。
その中で、東京都が公表した都立高校の教科書採択状況(令和5年度)によると、最も採択の多かった教科書は、実教出版の『最新情報Ⅰ』(教科書記号:情Ⅰ705)でした。
【令和5年度使用都立高校等使用教科書(東京都教育委員会)】
そこで、実際にこの『最新情報Ⅰ』という教科書を入手してみました。
教科書はアマゾンで簡単に買えます。1,930円と、思ったより高額でした(^^;
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教科書『最新情報Ⅰ』の概要
入手した教科書『最新情報Ⅰ(実教出版)』ですが、190ページほどで第一印象は”薄い”と感じました。早速、パラパラとめくってみると、全頁に渡ってカラー刷りでイラストもたくさんあり、最初のネガティブな印象とは異なり、高校生には割と読みやすそうだなぁと思いました。
学習目標は
「情報Ⅰ」の学習目標として次の3つが掲げられています。
①効果的なコミュニケーションの実現、コンピュータやデータの活用について理解を深め技能を習得するとともに、情報社会と人との関わりについて理解を深める。
②社会、産業、生活、自然等さまざまな事象を情報とその結び付きとして捉え、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する力を養う。
③情報社会に主体的に参画する態度を養う。
これは、もちろん文部科学省の学習指導要領に沿ったものですが、要領では次のように記されています。
情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ,情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して,問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用し,情報社会に主体的に参画するための資質・能力を育成することを目指す。(赤字は私)
基本的な考え方は、当初、「情報」と言う教科が導入された時から変わっていないと思いますが、従来の教育現場では、”パソコンの使い方”を習うことで終わっていたように感じます。この本来の目的が達成できれば素晴らしいと思いますが、現実的には教育のための人的資源も時間も足りていなかったのではないでしょうか。
どんな構成か
この教科書の目次は次のようになっています。
第1章 情報社会と私たち
第2章 メディアとデザイン
第3章 システムとデジタル化
第4章 ネットワークとセキュリティ
第5章 問題解決とその方法
第6章 アルゴリズムとプログラミング
第1章は一番重要な部分だと思いますが、約20ページで完結にまとめられています。短いからダメだというわけではなく、コンパクトですが大事なことがしっかり詰まっていると感じました。教科書の行間をどのように教えていくかが大切なことだと思います。
大切な第1章
第1章は「1情報社会」、「2情報社会の法規と権利」、「3情報技術が築く新しい社会」という3つの節で構成されています。「情報」とは何かという問いかけから、現代の情報社会における「情報」の役割、「情報」について学ぶことの意義から始まっていることが重要な点です。
「情報」というのは、物理的な「もの」の世界とは異なった、形のない抽象的な「こと」の世界を表現するものです。「情報」は、「①残存性」「②複製性」「③伝搬性」という特性を持っています。つまり、一度作られた情報はいつまでも消えずに残り(残存性)、簡単にコピーすることができ(複製性)、また伝わりやすく、広まりやすいという性質(伝搬性)があるということです。
この「情報の特性」が、好ましく活用できる場合と問題を生じさせる場合を生みます。情報の取り扱いにおけるモラルとマナーが、情報社会における個人情報や権利の保護に深く関わって来るのです。
この第1章は、大変完結にまとめられていますが、この教科「情報」の根幹を成すものであり、「情報」を学ぶ意義を示す大切な部分になると思います。高校生だけではなく、私たち大人も改めてその意義を確認する必要があります。
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